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【釣行記】21.09.05権現堂川 俺は見ている。時に寄り添い、時に一番高い所から【バス釣り奇行(8)行幸湖】

バス釣り奇行タイトル(権現堂川)

 

なんとか釣ったようだな。目標は無事達成、といったところか。まずは褒めてやるとしよう。しかし其れもここまで。今のルアーと昔のそれでは何もかもが違う。おいそれと、たやすいものではない。

「釣っていないルアーがまだ沢山ある」

確かにそう云っていた。だが深慮してもらいたい。躍起になって昔のルアーのみで釣る。それも結構。しかしそうこうしている間、今のルアーはどうなる? 気付いた頃にはそれらが古くなってしまうではないか。それらだって、魚を釣る為の道具なのだろう?

まあよい。ポンコツOJがこれから何をどうするのか。お前がどんなアングラーなのか。それとも只のポンコツなのか、見極めてやる。それまでは高見の見物としよう。まあ、せいぜい吠えづらをかくのが関の山だろうがな。

 

令和3年9月4日。数日前から雨空が続いている。夕方ともなると、ひんやりとした風が首筋を通り抜ける。そろそろ長袖が必要かもしれない。

夏の間よく着たTシャツをタンスの奥へと押し込むと、押し入れから衣装ケースを引っ張り出した。

 

ポンコツOJが釣りの準備をしている。明日、また行くつもりなのだろうか。さっきからホコリの被ったBOXを開けてはニヤニヤしっぱなしだ。まったく気持ちが悪い。ああいうのを自分だけの世界に浸かっている、というのだろう。なんにせよ、夢中になれるものがあるというのは良いことだけれど。

一体、どんなルアーを用意しているのだろう?

BOXの中身。古いルアーばかりだ。

「ふん、やはりな」

先日、彼は「まだ釣っていない昔のルアーが沢山ある」と言っていた。案の定、古そうなルアーばかり詰められている。きっとまた限定釣行をするつもりなのだろう。

明日は曇りの予報だ。9月に入ってからというものの秋めいてきて幾分寒い。急に冷え込むと魚も活性を落とすだろうが、幾日も続けば慣れてくる。それを狙うつもりだな。食欲の秋、魚もそうだとすれば、こんなルアーでも釣れるのかもしれない。さて、どうなるかな。

しかし俺は、見慣れない小さな「ワーム」がBOX内にあることを、気付いてはいなかった。

 

翌日。ポンコツOJの様子がいつにも増しておかしい。突然空を眺めたかと思えば、スマホを凝視してニヤニヤしている。朝からずっとこんな調子だ。こちらまで落ち着かないから、いい加減にしてほしい。

そんな彼が「権現堂に行ってくる」とだけ言い残し、家を出ていったのは昼も過ぎた頃だった。

 

令和3年9月5日(日)、昼下がり。茨城県五霞町権現堂川行幸湖)

最近のポンコツOJはよくここに来る。あれほど、釣れないと漏らしていたくせに。

権現堂を囲む木々はいつの間にか色づきはじめ、けたたましく鳴いていた蝉も威勢がない。日曜の権現堂には多くのアングラーが押しかけている。その中にはポンコツOJの姿もあった。

権現堂川(行幸湖)

 

「最初からあれを使うのかな」

そう思った矢先、彼はいつもとは違う竿を振り始めた。スピニングである。

ルアー釣り用のタックル(道具一式)は、「ベイト」と「スピニング」に大別される。ベイトとは、太鼓型のリールを用いて比較的重めのルアーを扱うタックルで、スピニングとは、小さく軽いルアーを扱うタックルである。

彼が振る竿の先には、これまた見慣れないルアーがぶら下がっていた。

権現堂川にて。極小ワームで釣る。

「今日はこのワームでいく」

ポンコツOJは腕を突き出して、何やらつぶやいている。

随分と小さなワームがあるのだな。子バスやブルーギルにとっては、まるでおやつだ。あれなら簡単に釣れるだろう。

「ああ、なるほど。そういうことか」

限定したルアーで釣り続けるのは容易ではない。だから餌みたいな極小ワームから始めた、そんなところだろう。とはいえ、あんなワームで釣ったところで、果たして楽しいのだろうか。

ポンコツOJは、いつもハードルアーばかり使っていた。それもほとんどがトップウォーターだ。楽しいはずがない。面白いと分かっていれば、とっくにその釣りをしているはず。きっと訳があるのだろう。あのタックルであのワームを使わざるを得ない何か理由があるに違いない。

 

それからの数時間。彼はタックルを持ち替えることなく、それを投げ続けた。時折、のけぞるように竿を振り上げるが、その先に魚が掛かっていることは、ついになかった。

ポイント移動を繰り返すポンコツOJ。すれ違いざまに、エサ釣り師と思わしき男性から声を掛けられていた。

「釣れたかい?」

「いや、ダメです。釣れないですね」ポンコツOJは言った。

笑顔で答えてはいたが、その眉間にはシワが寄っていた。なんだかんだ言っても、やっぱり釣りは釣ってナンボ。たとえそれが子バス狙いだとしてもだ。

エサ同然のルアーを使ってまで釣りたかったモノ。それが一体何かは分からない。しかし「ダメ」と答えた彼の心中はいかほどだっただろう。それが餌釣り師への返事だったというのか?

いや違う。

きっとポンコツOJ自身へと向けられたものに違いない。彼は自分自身へ「ダメ」と言ったのだ。自己を否定する彼のその釣りには、こだわりの先には、一体何があるというのか。

もういい。もう無理はするな。もう十分だろう。これ以上、見てはいられない。いつも通りでいい。いつも通りの釣りをしてくれ。

握り締めたこぶしが震えた。願うように、祈るように、それは果たして彼の耳に届くのだろうか。

権現堂川(行幸湖)行幸給排水機場

誰が見てもたやすく釣れそうな釣り。サイズはともかく数釣りできそうな釣り。その挙句の果てに釣れなかったとなれば、地層から発掘されたような、古臭いトップ用ルアーで釣りをしても同じことじゃないか。

その時、ハッと気が付いた。

「そうか!そういうことだったのか」

彼は、ポンコツOJは、伝えようとしているのだ。

まず釣れる釣りをする。にもかかわらず、釣れないところをあえて見せる。そうすることで、釣りとは何か、こだわるとは何かを伝えようとしていたのだ。

そう、彼こそは生粋のブロガーであった。

 

 

すがすがしかった。同時に恥かしくもなった。彼のことを今まで何年見てきたというのか。さすが、としか言いようがない。

「極小ワームでも釣れないのだから、釣れるかどうかに関係なく好きな釣りをすべき、ということだろう? な、そうなんだろう?」と、強く熱い想いを風に乗せ、彼に届けとばかり投げかけた。

すると想いが通じたのか、それともたまたまなのか。ポンコツOJが口を開いた。

「今日は日曜で人も多いし、たまには子バス狙いも面白いかなって思ったんだけどなあ」

「本当は大漁の予定だったんだけど、まさか1匹も釣れないとはね」とも付け加えた。

 

それは独り言のようにも聞こえた。しかし俺への返事とも取れなくもない。

どうやら、子バスいじめの「釣行記」ネタを考えていただけらしい。なんだよ、もう。心配した自分が馬鹿らしく思えた。

やっぱり彼は只のポンコツブロガーだ。あまりにもバカバカしくてその場に立ち尽くすほかなかった。

権現堂川(行幸湖)

ポンコツOJを残し、ほどなくしてその場を後にした。語り部を失った物語の結末は本人のみぞ知る、である。

 

しかしこれで良かったのだろうか。最後まで彼の釣りを見届けなくて本当に良かったのか。そう、うっかり忘れていたのである。彼がこの日、権現堂に持ち込んだのは、スピニングタックルだけではなかったということを。

ふん、釣れなかったか。ポンコツOJが云っていたことが誠ならば、奴は只のポンコツアングラー。そう、云っていたことが真実、だとしたら...な。どうやら、もう少し様子を見る必要がありそうだ。

 

 

 

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