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「ふたつの歯科医」 -まったく真逆の2つの歯科医。あなたはどちらを選ぶだろうか-

タイトル「ふたつの歯科医」

 

「ふたつの歯科医」

建物も設備も古いが通い慣れた歯科医と、何もかも新しく最新設備の整った開業間もない歯科医、あなたならどちらに診てもらうだろうか。

連休初日。突然、右奥歯に痛みを覚える。いや正確には突然ではなく前兆はあった。食事中、詰め物が浮くような感覚があり、それ以来ずっと違和感が残っていた。ただ、特に痛みがあるわけでも、詰め物が取れたわけでもないので放置していたのだ。

さて、どうする?

明日からはどこの医者も休みになるだろう。もう少し様子を見るか?それとも診てもらうべきか? よく行く歯科医は、昔から通っていたM歯科と、ここ最近から診てもらうようになったS歯科だ。

 

M歯科。

地元に根差してかれこれ何十年と経つ。おそらくこの辺りの住人のほとんどが、この歯科医にお世話になったことがあるのではなかろうか。規模は小さく、スタッフは一人だけ。いつ通院しても待合室に患者を見ることは稀である。おまけに、ここの先生は口数少なくぶっきらぼう。しかし長年の経験からくると思われる腕だけは確かだ。

 

S歯科。

市街地に立地し、多少車を走らせる必要はあるが、それほど遠いわけでもない。開業してまだ数年であり、建物・設備ともに新しく、スタッフを何人も抱え、通院する患者も多いようだ。広い駐車場にゆったりとした待合室。先生はいつもにこやかで、小さな子供連れの親子もよく見かける。今どきの医者らしく、治療前後の細やかな説明もありがたい。

 

痛み出した右奥歯。

それは以前S歯科で治療を受けた歯だった。当たり前のようにS歯科へと連絡を入れてみるが、取れた予約は6日後だった。大丈夫だ、なんとか我慢できる...。右頬を押さえながらそう思った。

しかしその決断は、ものの30分も経たないうちに、あっけなくも崩れ去った。

「ぐぅ...!!!」

我慢できるかと思われたその右奥歯は、想像できないほどに痛みを増したのである。執筆途中のブログどころの話ではない。なにも集中できない。名ばかりの鎮痛剤も用をなさない。気が付けば、もがき苦しむように床下に崩れ去っていた。心配した家族に声を掛けられたような気もするのだが、それさえも耳に入らなかった。

S歯科に診てもらうのは6日後。とても我慢できるはずもない。たかが数分でさえもだえ苦しんでいるのに。悲痛な面持ちでM歯科へと震える手で電話を掛けるのがやっとだった。そう、ワラをも掴む思いで。

「すぐに来てください」

そんな言葉が電話口から聞こえたその時、すぅ~と痛みがひいたような気がした。

 

その時、思い出した。

過去にも聞いたことのある言葉であったことを。

あれは、そうだ。まだ息子が小さかった頃。年端もいかない我が子が誤って座敷から転落してしまったことがあった。それもコンクリートに。血をだらだら流しながら息子は泣くばかりだった。息子は永久歯に生え替わるのが早く、あろうことか、血はその生え替わったばかりの前歯から滴り落ちていたのである。

すぐさま掛かりつけのX歯科へ連絡をするも、非情にも今はできないとの返事をされてしまった。そんな中すがる思いで電話したM歯科。

「すぐに来てください!」

そこでの言葉がまさにそれであったのだ。

心配した妻の運転でM歯科に到着したのはそれから30分程後のことだった。M先生は、今は虫歯となったその奥歯を適切に、かつ、じっくりと処置してくれた。いまだかつて、これ程までに時間を掛けて処置をしてくれた歯医者があっただろうかと思うくらいに。

歯が痛くないということが、どれほど幸せなことか。痛いほど、いや、もう痛くはないけれど、実感できた1日であった。あんな地獄のような思いはもう二度と御免である。

そうだ。あの時もそうだった。応急処置をしてもらった息子を、後日、知人の勧めで口腔外科医のいる歯科に診てもらった時、そこの先生はこう言ったのだ。「歯は何の問題もありません。適切に処置がされていますよ」と。 

幼かった息子。生え替わったばかりの歯から血を流し泣いていた息子。そんな息子と一生を共にする大切な永久歯を救ってくれたM歯科。 

なのに自分はそんなこともいつしか忘れ、見てくれの新しいS歯科へ通院するようになっていたのだ。M歯科は、自分だけじゃなく、息子の窮地をも救ってくれた歯科医だったというのに。

まだ右奥歯の治療は続いている。

M先生によれば、他にも要治療の歯があるそうだ。その治療はどこにお願いするのかって?なんて聞かないでいただきたい。言うまでもなくM歯科をおいて他にないのだから。

今日の診療時、この奥歯はあとどれくらい通院すればよいか聞いてみた。あと3回との返答に、なるほどじっくりと治療してくれるんだな、と思った。先日のあの日だって、念入りに処置してくれたものなあ。そう、キュルキュルなんて音を立てて...。

 

 

 

 

...ん? 

キュルキュル??

 

もしかして、あれは神経を抜いていた音だったんじゃないか???

目をつぶっていたから気付かなかったけれど、確か以前S歯科で神経抜いた時もそんな音がしていたことを思い出した。

 

...

 

で、できれば事前に言って欲しかったかな~神経抜くって。一言でいいから。 

抜くしかない状態だったのだろうが、要はまあ、そんな医者なのであった。

 

どうやら、歯科医もまた、その状況状況に応じて選んだ方がやっぱり良さそうである、というお話でした。

 

最後までお読みくださり ありがとうございました。

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